医療看護研究会誌 第12巻1号
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西村ユミ:現象学的看護研究─考え方と方法10いかけるという方法をとった。その看護師が、その都度何に注意を向け、何を気にかけ、何に視線を向けているのかにまずは関心を向けた。同時に、それに関心が向くことを支える文脈にも留意した。同伴している看護師のもとに他の看護師たちが集まり、相談をしたり情報を交換したりしているときには、そこで起こっていることや、集まっている看護師たちの言葉も書き留めた。それは、私が同伴している看護師にも聞こえていることであり、それを手がかりに次の動きが決められる可能性があるためだ。私には、気づけないこともたくさんあった。看護師の動きや関心と私のそれとがずれることがあった。それは、私にとって疑問や驚きなどとして現れ、実践の成り立ちを理解する切り口にもなった。このように、フィールドワークは行われた。2.インタビュー 本研究では、実践に同伴させてもらった看護師に対して、フィールドワークにおいて疑問を持ったり驚いたりした出来事を、できるだけ具体的に、感じたことや思ったりしたことも含めて、思い出しながら語ってもらうという方法をとった9)。 このインタビューは、上述した視点を質問の入り口とするが、最初の質問の後は、できるだけ自由に、看護師の経験に即して語ってもらった。それは、調査者である私たちがあらかじめ枠組みを提示して情報を聞き取るのではなく、当事者がある出来事や実践を、その順番も含めていかに語るのかを問うことができるよう配慮した方法である。特に、話題の転換などは、質問によって行うというよりも、語りの流れの中で語り手によって作られることを期待してインタビューを行った。 具体的な語りの中では、それまで気づいていなかったことまでもが語り出されたり、自分の語りに促されて、捉え直されつつ語られたりすることがあった。それは、問うインタビュアーと経験を語るインタビュイーの言葉が、切り離されて独立してしまっていないために生じうる事柄である。言い換えると、インタビュアーとインタビュイーとがともに創り出した言葉であると言えるだろう。例えば、メルロ=ポンティ12)はこうした営みを「対話」の経験として次のように記述している。対話の経験においては、他者と私とのあいだに共通の地盤が構成され、私の考えと他者の考えとがただ一つの同じ織物を織り上げるのだし、私の言葉も相手の言葉も討論の状態によって引き出されるのであって、それらの言葉は、われわれのどちらが創始者だというわけでもない共同作業のうちに組み込まれてゆくのである(p.219)12)。他者の考えはたしかに彼の考えであり、それを考えているのは私ではないのだが、私はそれが生まれるやいなやそれを捉え、むしろそれに先駆けてさえいるのだし、同様に、相手の唱える異論が私から、自分が抱いていることさえ知らなかったような考えを引き出したりもするのであり、こうして、もし私が他者にさまざまな考えを考えさせるのだとすれば、他者もまた私に考えさせているわけである(p.219-220)12) 私自身も、経験を聴き取るインタビューにおいて、それまで気づいていなかったことまでもが浮かび上がってくる構造をこれまでにも記述してきた13)。Ⅳ.具体的にいかに分析をしたのか ここでは、「音」の経験に関する西村(2012)3)の研究の一部を取り上げる。本稿の目的は、患者たちのもとで生じたり彼らが訴えたりする“音”をめぐる実践に注目して、いかにそれが編成されているのかを記述することである。なお、本稿では、看護師はアルファベット、患者は数字で示している。1.病棟とチームの状況 病棟という場所においては、モニターやそのアラーム音、ナースコール、人の声や動き、申し送りの声等々、多種多様な音が響いている。これらすべての音をそのつど識別することは現実的ではないため、看護師たちは必要な音を聞き分けて応答していく。それゆえ、音をめぐる実践の探求は、音がそれとして意味を帯びて浮かび上がる、その生成がいかに編成されているのかを問うことでもある。 フィールドワークにおいて、ある日、私は看護師Aさんに同伴した。このAさんは、臨床経験が6年目となる中堅看護師である。ここでは、このAさんの実践に注目してその編成を記述する。 私が同伴をした日、Aさんは一方のチームのリーダーだった。このチームは1号室から6号室の患者を担当していた。Aさんはリーダーではあったが、リーダ

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