医療看護研究会誌 第12巻1号
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小貫恵理佳:手術を受けた肺がん患者が外来で再発治療を受けながら生きていく体験30療を継続できている体験を示している。このカテゴリーには、《他者との関わりの中で治療継続を決意する》、《友人の励ましが心の支えとなる》、《医療者の対応に安堵する》、《他者との繋がりによって存在意義を感じる》の4つのサブカテゴリーが含まれた。「私が追い詰められて死ぬことを前提に話をしていても、「大丈夫」と言い続けて励ましてくれる友達に支えられていると思うんです(対象者D)」6)【根治を望めない治療による身体変化や病状悪化に落ち込む】 このカテゴリーは、治療を受けながらも病状の悪化を常に案じている体験を示している。このカテゴリーには、《さらなる転移や悪化を気がかりに感じる》、《治療による身体症状の悪化により生活の支障を感じ悲観する》、《完治しないことは仕方がないと思いつつ憂鬱になる》の3つのサブカテゴリーが含まれた。「今回は転移がなかったから良かったけど、いつ転移するかわからないから常に不安ですよ(対象者A)」7)【物事を前向きに捉えるように努力する】 このカテゴリーは、困難な状況を悲観するのではなく気持ちだけでも前に向けようと努力している体験を示している。このカテゴリーには、《思考を前向きにコントロールする》、《病気の事でストレスを溜めないように気持ちを整理する》の2つのサブカテゴリーが含まれた。「脳転移を見てもらっている先生には余命1年と言われて悲観的に考えてしまったけど、主治医の先生は駄目なら駄目と言ってくれる先生なのに、予後を言われないからまだ大丈夫なんだと信じて希望を持っていようと思っています(対象者D)」8)【残された時間を意識することで価値観が変化する】 このカテゴリーは、再発の診断を受けて予後を意識することで価値観が変化していく体験を示している。このカテゴリーには、《残りの時間を思うことで考え方が変化する》のサブカテゴリーが含まれた。「病気になってからね、人を大事に思うようになりました。人との繋がりだったり、仕事でも教えられる事は教えようって(対象者C)」9)【死を覚悟しながら生きる】 このカテゴリーは、再発し治療を繰り返す中で死を見据えて生き方を模索する体験を示している。このカテゴリーには、《残された時間を考え生かされている時を存分に生きる》、《残りの生き方を模索する》、《死を見つめ最期の時を思案する》の3つのサブカテゴリーが含まれた。「この先明日倒れるか、5年後に倒れるかわからないけど、元気のある時にベストを尽くせばいいと思ってるんです(対象者C)」Ⅵ.考察1.手術後に再発した肺がん患者が外来で治療を受けながら生きていく体験の特徴1)根治が確実ではない高額な治療を継続することに戸惑いつつも根治薬開発に期待を寄せて主体的に治療を選択する 手術後に再発した肺がん患者が外来で治療を受けながら生きていく体験のうち【積極的にがんに効くことを実践し自分に合った治療を選択する】、【より長く生きるための特効薬の開発を願う】、【生涯続く高額な治療費への不安がある】から、手術後に再発した肺がん患者が外来で治療を受けながら生きていく体験には、根治しない治療への経済的負担と少しでも長く生きたいという期待の中で、葛藤しながら治療を選択しているという特徴があると考えられた。 本研究の対象者は、新薬の開発や新たな薬が承認される情報について、自分で調べて治療を選択しており、次に受ける治療に希望を持って療養生活を送っていると考えられた。再発肺がん治療薬である分子標的薬とプラチナ併用療法の全生存期間には明らかな差がない15)が、選んだ治療によって生活スタイルは変わる。例えば、分子標的薬を選択した患者は、内服治療であるため、皮膚障害や呼吸器症状といった副作用に対するセルフケアを行いなから自宅で生活することができる。一方、プラチナ併用療法を選択した患者は、点滴治療であるため、入院もしくは外来通院治療センターに通院しながらの生活となるが、主な副作用である消化器症状への対処は医療者のサポートを得ることが容易である。そのため医師と相談しながら患者が自分で治療を決めることが、残された時間をその人らしく生活するためにも重要であるといえる。 一方で、本研究の対象者は、生涯続く高額な治療費への不安を抱えていた。肺がんの治療は、第一選択として、外科的切除術施行の可否が検討され、切除不可能ならば次の治療に移行する。本研究の対象者は、全員が初回治療として手術療法を受け、再発後の治療は、手術療法や化学療法を繰り返し受けていた。そのため対象者は、命の続く限り継続される不確かな治療を受けるため、膨大な医療費がかかることへの不安が大きいと推察される。Mishel16)は、不確かさを「病気に

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