医療看護研究会誌 第12巻1号
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順天堂大学医療看護学部 医療看護研究 第12巻1号(2015)41ッフからは、作業中に「しゃべりすぎ、仕事なんだから集中してよね」と言われるほど〈通じあえる仲間の存在〉があり、仲のよいグループを形成している。 統合失調症者の居場所について広沢は「精神科リハビリテーションは、彼らの生きる姿勢にかなった「居場所」の確保を前提にして展開される必要があろう。」また、「無条件に居てよい居場所」の具体的な支援を目指すものであるならば、それは適応と自己治癒を進める大きな器になる」10)と紹介している。コミュニティの力について狭間は、「物理的、対人関係的、制度的な豊かさをもつ、コミュニティ内の人々や組織は、頼まれれば、他の人びとを支援したり、支援するために自らの才能や知識を提供する」11)と紹介している。 障害や作業能力に関する語りには、「失敗してしまうのは経験が足りないから」「病気で具合が悪い時に理解してくれる仲間がいたりスタッフがいる」などが聞かれていた。統合失調症による生きにくさはあるが、病気だからできないのではなく、自信がないからできない、慣れていないからできない、失敗してもよいから、また頑張ろうというスタッフや仲間の働きかけが存在し、〈安心できる居場所〉となっているものと考えられる。 スタッフからの働きかけの特徴としては、「それでどうしたいの」というオープンクエスチョンにより、「当事者が判断をして言葉にする。」という自己決定への働きかけがあげられる。課題に対する自己決定について諏訪は、「誰かに指示・命令された行動に責任を感じる人は少ない。それに対して、自己決定した行為にはやりがいと責任を伴い、モチベーションが強く働くことから、確かな結果が期待できる」12)と紹介している。 自分自身が決めたことに対して責任を持って行動をする。受動的であった当事者は、戸惑いながらも経験を重ねる中に、これまでの自分自身の態度に疑問を抱くようになってきている。「決めてくれた方がらくだなと思うんだけど。…でも今はずいぶん自分で決めながら自分で生きている感じ」「当たり前のように相談してたけど、これって変な話」の語りからも、カテゴリー5《生き方の自由選択》という主体性の再獲得につながっているものと考えられる。 当事者は、自己決定により地域の作業所に通い続け、信頼しあえる仲間と居場所をつくる。人を助けたり、助けられたりという、ピアサポート的な力動が作用している。そこは、同じ問題を抱える仲間が的確に作業をこなしたり、時には失敗をしながらも周囲に支えられ、乗り越えられたりという当事者同士が支えあうコミュニティを形成し、カテゴリー6《回復への確かな希望》に繋がっているものと考えられる。 3.社会の一員としての自覚 統合失調症を発病した意味について当事者は、「病気になって何もかもなくなった感じ」と語っている。一般的な認識として精神病の発病は、人生からの落…伍13)であると感じているように、当事者もまた発病した事による感情はネガティブなものが多く存在しているものと推測できる。 当事者は、作業所の利用を通して【エンパワーメントへの初期の方向付け】、【自己決定による新たな生き方の方向付け】という局面をたどりながら、新たな生き方を自由選択することになる。自身の行動に対する自覚と責任が芽生え、さらにそれを遂行することにより自己効力感が高まっていくものと考えられる。社会的な役割と責任の自覚、社会からの期待、自尊心の回復と言う要因を通して、カテゴリー7《関係性の回復》につながり、社会生活の生産に関わる一員としてカテゴリー8《社会参加の手ごたえ》を感じ、社会との繋がりや関係性を再獲得していく局面を迎えるものと考えられる。 統合失調症者の回復過程について浦河べてるの家では、『メンバーの過去の挫折や行きづまりを見ていると、彼らが「関係」に挫折してきたことがわかる。それは他者との関係であり、自分との関係だ。だから関係に挫折し自信を失ってきた一人ひとりが、持てる力を発揮するためには、「関係」において回復し、関係のなかで自信をとりもどしていくしかない。』14)と紹介している。 また、精神病からの回復についてローリ・アーハンらは、「回復は、回復すると信じること、回復できると信じてくれる人と人間関係を持つこと、回復技術を習得すること、そして社会での価値ある役割を得ることの組み合わせにより達成される。回復するとアイデンティティは精神病者から完全な人間へと変化する。」15)と紹介している。 このことは、当事者のリカバリーを促進する要因と一致している。当事者が作業所に通い続ける意味は、変わりたい、前進したいという希望を持ち続けることによってなされる。そして多くの人間関係に支えられ、当事者自身が、自分を信じられるようになり、自

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