医療看護研究会誌 第12巻1号
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岡本隆寛:就労継続支援B型事業所を利用する統合失調症者のリカバリーに影響する要因42分を信じてくれる人との人間関係を築けるようになるという〈家族との和解〉、〈地域社会とのつながり〉という関係の挫折からの回復につながっている。当事者自身が、生き方を変えることにより、統合失調症者を見る周囲のまなざしに変化が生まれ、一人の人間として、新たな人間関係の再構築がなされたものと考えられる。 精神障害者が作業所を就労訓練の場として長期間利用することについて、「作業所内適応の固定化」「地域内施設症」として社会参加とは程遠い16)17)と報告している。これは、専門職の視点であり、作業所は、就労訓練の場でありそこに停滞することは精神科に長期入院と同等の問題であるという発想である。 人が仕事をするという意味についてローリ・アーハンらは、「仕事はしばしば価値ある社会的役割を獲得するよい方法である。仕事は療法であると私は心から信じている。それは朝起きて働きだす理由になる。仕事は、私も社会に貢献していると感じさせてくれ…る」18)と紹介している。また、相澤は、「仕事を通じて自己実現を図り、社会的な役割を担い、収入を得る、精神障害のあるなしにかかわらず、多くの人にとって、働くことの意義には共通する面があるといえる。」19)…と紹介している。 当事者は、「下請けだけどきちんとやらなければ信用を失う」と語っている。作業所ではあるが、工賃をもらうということは正式な仕事であると認識をしている。ローリや中澤らが指摘するよう、作業所の仕事を通して〈期待されることによる自信〉、〈収入を得ることによる満足〉はカテゴリー8《社会参加の手ごたえ》であり、役割の獲得、自己実現、社会に貢献しているというリカバリー促進に影響しているものと考えられる。Ⅶ.研究の限界と今後の課題  作業所における運営方針については、設置団体やスタッフの考え方によって差があり、各施設のもつ特徴、力動によって当事者のリカバリーの方向性に差が生じてくるものと考えられる。 本研究の対象者は、1か所の作業所の利用者11名と少なく一般化するには限界がある。今後は、作業所の特徴と当事者の回復との関係性について明らかにすること、調査対象を拡大し、地域における当事者のリカバリーに影響する要因について一般化することが課題である。Ⅷ.結語 本研究は、就労継続支援B型事業所を利用している統合失調症者11名を対象に、リカバリーに影響する要因を明らかにすることを目的に質的な分析を行った。その結果、リカバリーのⅠ段階【エンパワーメントへの初期の方向付け】に影響している要因として、《生きにくさとしての葛藤》、《主体性の喪失》、《かすかな希望と歩み始め》があげられた。 リカバリーのⅡ段階【自己決定による新たな生き方の方向付け】に影響している要因としては、《守られた環境》、《生き方の自由選択》、《回復への確かな希望》があげられた。 リカバリーのⅢ段階【社会の一員としての自覚】に影響している要因としては、《関係性の回復》、《社会参加の手ごたえ》があげられた。引用文献1)野中猛:図説 医療保健福祉のキーワード リカバリー 初版, 中央法規, 36-37, 2011. 2)Patricia E. Deegan.:Recovery:The Lived Ex-perience of Rehabilitation, Psychosocial Rehabili-tation Jounal, 11(4), 11-19, 1988. 3)マーク・レーガン著:ビレッジから学ぶ リカバリーへの道 精神の病から立ち直ることを支援する, 前田ケイ監訳, 初版, 金剛出版, 24-30, 2005. 4)前掲書1) 36-37.5)ジャネット・パレオ:特集4 リカバリーは可能か?, メンタルヘルスマガジン こころの元気プラス, 宇田川健翻訳, 2(9), 14-17, 2008. 6)狭間香代子:社会福祉の援助観ストレングス視…点・社会構成主義・エンパワーメント, 初版, 筒井書房, 102, 2001. 7)平川博之:改革ビジョンの「地域生活中心」実現のため, 今こそ精神科診療所を地域資源として有効に活用すべきである, 現代のエスプリ 精神科診療所の現在, 531, 157-169, 2011. 8)白澤政和編著:ストレングスモデルのケアマネジメント, 初版, ミネルヴァ書房, 2-7, 2009. 9)岡本隆寛:統合失調症看護の新たな展望−病気を語ることの意味, べてるの家の取り組みより−, 臨床心理学研究, 45(1), 1-9, 2007. 10)広沢正孝:慢性期統合失調症患者の治癒像を考える−第三の故郷を求めての旅, 統合失調症のひろば, 2, 97, 2013.

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